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2.ケツ毛のアン
だけどアンは、どうもそこのところに気づいていないみたい。でもそれもそのはずで、しょうがない。アンには自分の子供が居ないし、この町では子供の姿を殆ど見ない。ぼくには優しいアンだけど、ほんとは子供の扱いに慣れていないのだと思う。夜に賑わうこの町では、子供向けの商品をメインに置く店などないことも、きっとアンは知らないのだろう。
ぼくと繋いでいないほうの手をヒラヒラと振って、店員を呼びつけようとしていたアンは、ぼくの言葉に振り返った。あげかけた手を口元に添える可愛らしい仕草で首を傾げる。
「あら、そう? 遠慮なんてしなくていいのよ。なんでも好きなものを買ってあげる」
ぼくもまた、アンを見上げて鏡写しに首を傾けた。
お申し出は有り難いんだけど、残念なことにこの店にぼくの好きそうなものはない。まだ入ったばかりで全部を見たわけじゃないけれど、ぼくはそう確信する。でもそう言ったら、アンががっかりするのも簡単に想像できた。
「じゃあ……」
ぼくは困惑しながら店内をぐるりと見渡して、目についたふわふわの毛の塊を指さした。
「あれがいい。かな。」
ほんのりと色味のついたガラスでできた低めの棚の上に、一点ずつ、丸めたり首元だけのトルソーにかけたりしたマフラーやストールが飾られている。ふわふわの毛玉はその中のひとつだった。
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