2.ケツ毛のアン

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 ほんとは毛皮なんて大げさなものじゃなく、毛糸で編んだ小ぶりのマフラーで十分だったのだけど、この店にそれらしいものはひとつもない。棚にある他のマフラーやストールには、どれもキラキラの宝石みたいな飾りや羽根がついているか、でなければ鮮やかなヴァイオレットやカーマインの色をしていた。その中で唯一、ぼくが示した毛だまりだけが、地味な灰色をしている。目立つ飾りもついていなかった。今日、アンと出会ったときに手袋についた毛皮の飾りを可愛いと思ったのも、それを選んだ理由のひとつかもしれない。  毛皮のマフラーなんて子供がするには贅沢すぎる気もするけど、でもそれなら今回だけ汚さずに使って、あとはパパにあげればいい。アンはそういうことで目くじらを立てるタイプではないから安心だ。 「んー、そうね、悪くはないけど。どうせならこっちのほうが可愛いんじゃない?」  ぼくの示した棚に向かって、手を繋いだまま近づいたアンは、隣の別のマフラーを薦めた。とんでもない色をした毛皮のポンポンがいくつもいくつもくっついた、信じられないデザインだ。確かにアンなら似合わないこともない気もするけど、ぼくには絶対似合わないしパパもきっと使わない。ぼくは慌てて首をぶんぶん左右に振った。 「そう、仕方ないわね。それならちょっと巻いてみなさいな。アタシが審査してあげる」  ふふっ、と弾むように笑って、アンはぼくの背の届かない棚から、グレーの毛玉みたいなマフラーを手に取った。広げてぼくの首に巻き付ける。思ったよりも大きくて、ぼくは顎の辺りから腰近くまですっぽりとくるまれた。 「あら可愛い。ポンチョみたいね」  少しにじんだ口紅の赤い唇をキュウっと綺麗な半弧にして、アンは意外に満足そうに笑った。     
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