2.ケツ毛のアン

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 ふわふわの毛は見た目よりずっと滑らかで、表面はわずかにひんやりしている。下から手を出して撫でてみると、つるつるともすべすべともつかない、それでいてとてもやわらかな感触がして心地よかった。包まれた体はすぐにもホコホコするほど暖かい。何より、近くで見てみると、灰色の無地かと思われた毛の一本一本の先が、わずかに白くなっているのがとても素敵だった。雪化粧された地面か屋根の上みたいだ。  ぼくはすっかりこれが気に入った。心の中でアンに「ごめんね」と謝っておく。ぼくの好きそうなものなんてありっこないと、勝手に決めつけてしまったから。ちゃんとあったよ、と、これもまた心の中でアンに言った。 「じゃあこれくださる? 包まなくていいからこのままで。揃いで手袋もお願いね。え? サイズがない? あら、そう。別にいいわよ。あとはそうね、そこのドレスとあそこのクラッチバッグと、そこの、そうそれもお願いするわ。ああ、そっちは袋に入れて頂戴ね。支払いはいつもの通りに」  慣れた様子でアンが店員に指図するのを、ぼくは心地よい毛のぬくもりに包まれて眺めた。物珍しくて少し興味深い。ぼくはあまりこういう店に来ることがなかった。子供だけで入る店ではないのももちろんだし、パパもあまり出入りしないから。もしかしたら仕事用の買い物で訪ねたりしているのかもしれないけど、ぼくを連れて入ることはなかった。いくつも店を経営しているくらい実はお金持ちのパパだけど、普段はあまりそんなふうには見えない人だ。アンのように買い物で派手に散財することもない。       
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