3.バー「レッド・ルージュ」

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3.バー「レッド・ルージュ」

 ぼくとアンが仲良く手を繋いで戻ると、店はしんと静まり返っていた。少なくとも、外まで声が聞こえてくるほどの騒ぎは収まったみたいだ。アンはぼくを見下ろして、「良かったわね」と言うように笑みをくれた。  ぼくが指先の折れ曲がった手袋のはまった手でドアを開くと、カラン、カラン、とカウベルが鳴る。カウンターに突っ伏していたパパが顔を上げて振り向いた。  パパが趣味でやっているこの店は、場所も歓楽街の中心から外れていれば大きさももちっぽけで、ドアを開ければ店内が一目で見渡せる。正面に鏡張りの棚を背にしたカウンター。席は背もたれのないスツールのイスがたったの七席だ。  その一番端っこの席で、パパはお酒を呑みながら半分寝こけていたらしい。振り返った顔は、多分いっぱい泣いたんだろう、まぶたがパンパンに腫れていて、目が真っ赤に充血していた。頬っぺたが赤いのは、お酒のせいなのか、もしかしたら恋人の男の人に叩かれたのかもしれない。肩のずり落ちたシャツとどこかへ飛んでいったボタンが、喧嘩の壮絶さを物語っていた。
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