1.パパとぼく

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 ショーパブもこの店も同じ界隈にあるけれど、パブのあるほうが賑やかな歓楽街の中心部で、こっちはあまり人通りもないハズレの裏通りだ。どっちにしてもマトモな人はあまり足を踏み入れない。治安の悪い一帯だから。店に来るお客も一般的な常識人じゃないことが多い。そんなお客の中からパパはよく恋人を作るので、ロクデナシばかりになるのも当然と言えば当然なのかもしれなかった。  パパは決まってこう言う。 「そりゃあ、アタシだってもっとちゃんとした人と付き合いたいわよ。でも好きになっちゃったんだもの。オカシな男をさ。出会ったときにはもう決まってるの。この人と恋に落ちるってことがね」  だったら、そんなオカシくない人と出会える場所で店を開けば、少しはマシになりそうに思うのだけど、そう簡単な話ではないらしい。  パパはとてもいかつくて、腕も足も樽が入ってるみたいにゴリゴリに太く、ひげを剃った跡が青々している男らしい風貌なので、そういう人がカツラも女物の服も身に着けず、でも口紅だけはして、女言葉でしゃべりながら酒を出すような店は、こんな町でもないとさせてもらえないのだそうだ。  加えて、パパは耳の穴が余分に一個増えたみたいな、大きくて重いピアスを両耳にぶら下げていて、二の腕から背中にかけてとても立派なタトゥーがあり、そんな人はよその町で暮らすことも難しいらしい。それらの装飾は、パパにとても似合っていて、格好イイとぼくは思うのだけれど、世間一般には受け入れられないものなのだそうだ。ぼくにはよくわからない。ぼくはこの町から出たことはないから。     
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