1.パパとぼく

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ううん、もしかしたら前は別の町に居たのかもしれない。ぼくは拾われっ子で、ある時、道ばたに落ちているのをパパが拾ってくれた。  パパはバーが閉まる明け方、お客が残した空き瓶や吸い殻を捨てに、裏口から店を出る。その、ごみ置き場に最適な裏路地に、ぼくは落ちていたんだそうだ。その日は前の午後から雨が鬱陶しく降り続いていて、平らになりきらない路地裏の地面には大きな水たまりがいくつもできていた。ぼくはそのひとつに顔を浸けただらしない格好で、殆ど半裸に近い状態で突っ伏していたらしい。  捨てられたのか、迷子になって行き倒れたのか、どっちにしろ面倒ごとには違いないから、パパはちょっと驚いただけで無視しようとした。この町では、喧嘩や殺人なんてそれほど珍しいことじゃない。生きてるのか死んでるのかわからない酔っ払いやヤクザ者が、道ばたに転がっているなんてしょっちゅうだ。関わるとロクな目に遭わないから、できるだけ知らない顔をするのがいい。     
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