1.パパとぼく

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 けど、具合の悪いことに、ぼくが倒れていたのはパパがちょうどゴミを置きたい場所で、そこに転がっていられるとジャマだったらしい。ついでにその日は、その時付き合っていた恋人と喧嘩別れをしたばかりで、パパはちょっぴりどころじゃなく人恋しい気分だった。なので、パパはぼくを拾って店に引き入れ、ベッドに寝かせて医者を呼び、診察をさせた後、ぼくが目を覚ますまで看病して面倒をみてくれた。  しばらくして目が覚めたぼくは、自分がどこの誰なのか、すっかりさっぱり忘れていた。どこかで頭でも強く打ったのか、元々そういう性質の人間なのか、何か怖い思いをして、その思い出ごと色々を忘れ去ったのか。詳しいことはわからないけれど、それよりもぼくは、目の前のゴツくて脱色したツンツンの短髪に剃りこみが入っていて、そのくせ小指を立てて上半身をくねらせながらタオルを絞る変なオジサンが誰なのかが気になった。  尋ねてみると、しばらく考え込むような間の後、 「あなたのパパよ」  と言った。 「あんたのことなんてこれっぽっちも知らない真っ赤な他人だけどね」  とも付け加えた。  それ以来、血のつながらないオカマの中年男がぼくのパパになった。
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