2.ケツ毛のアン

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 それだけならまだいいけれど、本当にダメな時のパパは、悪い薬に走ってしまうのでとてもよくない。その薬を使うと楽しい思い出が次々と甦って、今まさに目の前で起きていることのように幸せな気分を味わうことができるけれど、少し間違うと死んでしまう危険のあるものだ。ぼくは絶対やっちゃいけないと教わっている。ぼくもパパに、使わないでってお願いした。だってパパが死んじゃったら困る。パパは、 「そんなの当り前よ。んもう、あんたってば可愛いこと言ってくれちゃって。アタシがあんな馬鹿気たクスリに手をだすわけないでしょ」  なんて、気安く笑って答えてくれるけど、普段のパパと落ち込んでいるときのパパはまったくの別人みたいなものだから、約束はあまりアテにならない。  早くたくさん積もらないかな。そう思いながら、ぼくは薄っすら白く染まった地面にしゃがみこんで手を触れてみた。ジン、と痺れるくらいに冷たい。手袋をしていないから、すぐに指先が真っ赤になるのが見える。ぼくは身震いをひとつして、両手を地面から離した。  体温で溶かされた雪がアスファルトを黒く濡らして、手形がふたつ残っている。思ったよりもちょっと小さい。ぼくの手はもう一回りくらい大きいはずなんだけど。不思議だ。  ぼくは両手のひらを上にして、自分の実際の手と手形とを交互に見比べる。地面についたせいで、親指の付け根や指の腹が少し汚れていた。真っ赤になってジンジンしている。ぼくは頬を膨らませて、両手に息を吹きかけた。あんまりあったかくない。ふう、ふうっ、と何度も息を吹きかけていると、急に背中を押された。 「ひゃっ」「キャッ」     
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