二幕の七・手紙と馬車と青年将校

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随分と(つたな)い言葉遣いである。 玉露が聞いたら目くじら立てて、 「あんたはなんだって言葉の使い方ひとつ覚えらんないんだろうね。あんだけ教えてやったってのに、馬鹿なのかい。このスカポンタン。頭ン中、空っぽなんじゃないだろうね。伽藍堂(がらんどう)なんだったら仏舎利(ぶっしゃり)でも詰めときなッ」 とかなんとか、言いそうなものである。 幸い、馬車の中に玉露は居ないので、紅花は叱られずに済んだ。 だが占部はまたしても呆気に取られて瞠目していた。 もっとも、これもまた傍目にはせいぜい隣の少年を注視している程度にしか見えぬのだったが。 紅花はその視線を感じ、変にしゃべり過ぎたことに気づいて口を押えた。 両手の先を唇に当て、目をぱちぱちさせながら頬を染める。 「……すみません」 「いや」 気まずい沈黙が訪れる。 なんだか噛み合っているような噛み合っていないような、奇妙な取り合わせの二人を乗せて、黒塗りの馬車は祭りの催されている寺川町の一角へと走り続けた。
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