210人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんな訳なんで、この子はこちらに任せて頂けると。あなたは是非、そちらの馬車で店に引き返して下さい。玉露さんが首を長くしてお待ちですんで」
紅花の頭を撫で繰り回しながら、トキワは占部に向かって会話する。
「へ?」と紅花は目線を上げた。
邪険な仕草にならない程度に遠慮しもってトキワの腕を退け、乱れた髪を手櫛で整えながら振り仰ぐ。
対面する二人の男を交互に見た。
少しばかしトキワの方が、占部よりも背が低い。
中折れ帽を被ってちょうど同じくらいである。
柄物の派手な開襟シャツを着ているが、トキワが着ていると不思議と下品な感じがしない。
折り目の通った白いパンツに茶色い皮のベルト、金具のついた白いピカピカの革靴。
お洒落である。
対して占部は洒落ているというのとは違うが、パリリと糊の利いたシャツにやはり折り目の通ったズボン、曇りひとつない深い色味の革靴と金時計。
清潔感と高級感がある。
年の頃はほぼ同じかトキワが少し年嵩だろうか。
そのせいなのか、飄々とした佇まいのトキワと規律正しさを伺わせる佇まいの占部と、まるで正反対に近いはずなのにどことなく似通った印象がある。
幾つかの共通項のせいかもしれない。
どちらも一見すると細身の長身で、手足が長く、腰の位置が高い。
実は鍛え抜かれた筋肉美が衣服の内側に隠された占部に対し、トキワは若干見劣りするが、
しかしなんだかんだと万事屋まがいの仕事で体を使っているから、それとも足で稼ぐ探偵稼業のためか、半袖から突き出た腕の感じなどはいかにもしなやかでよく撓るムチのような張りがある。
面立ちはどちらも日の光がよく似合う爽やかな美丈夫だ。
占部のそれには厳格さが感じられ、トキワは優男風である。
「お二人はお知り合いなんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!