二幕の八・似て似つかぬ青年二人と祭囃子

7/9
前へ
/602ページ
次へ
トキワの安請け合いに占部はなかなか頷けない様子だ。 それはそうである。 彼の言う通り、訪問を受ける側にも都合がある。 約束の時間があるのなら、それに合わせて仕度を整えるものだ。 ましてや玉露は陰間であるから、髪に着付けに化粧にと、身支度は人並み以上に必要である。 慣れた彼のことであるから、さして時間は掛からないにしても、であればこそ、直前まで寛いでいる可能性も高い。 まさか襦袢一枚のすっぴんで股座をボリボリ掻きつつ寝っ転がっている、なんてことまで占部は想像し得まいが、休んでいるところに邪魔をしては悪いと思うのは当然である。 ボンボンはボンボンでも、どこぞの編集者と違って占部は良識ある貴公子だ。 しかしトキワはそんな占部の懸念を跳ね除け、驚かせておやんなさいとけしかける。 彼の言うには、玉露は寛ぐどころか悶々と、首をながく伸ばして占部の訪れを待ちわびているということだ。 果たしてそんなことがあるのかどうか。 紅花にはちょっと想像しがたい。 玉露が占部をここのところ気に掛けていたのは事実らしいものの、相手が誰であれ、彼が客を待ち侘びているところなどこれまで見たことがない。 なかなか会えずに焦れるのは、いつだって客のほうである。 何より紅花にとって不思議なのは、どうしてこうもトキワが占部を後押しするのかである。 お近づきになりたいから、と言っていたが、こんなことで顔見知りになったところで仲が深まるとも思えない。 そもそも、玉露が占部と会いたがっていることをいったいどこで聞きつけたのやら。 陰間の胸中など世間に流布しようはずのないものを。
/602ページ

最初のコメントを投稿しよう!

210人が本棚に入れています
本棚に追加