二幕の八・似て似つかぬ青年二人と祭囃子

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「うーん、喜んで頂けるかと思ったんですが、気の回し過ぎでしたかね」 トキワは苦笑して占部に問う。 巧く取り入るつもりがアテが外れた、といった様子だ。 「ご迷惑でしたか」 「いや、そういうわけでは……」 占部は占部で、下手(したて)に出られると無下にしにくい性質(たち)らしく、気まずげに言葉尻を濁す。 トキワから逸らした目線を紅花の頭上に落とした。 占部の懸念は、ただ約束の時間より早く訪ねることだけにあるのではない。 頼まれ事を途中放棄することにもあるらしい。 二人を交互に見やっていた紅花は、占部とばったり目線が合い、唐突にそのことに気づいた。 「あ、あのっ。こちらは全然構いませんので。どうかお気になさらず」 取り急ぎ口を挟む。 占部はちょっと身を引いた。 この反応は二度目である。 紅花の子供らしい前後の脈絡なさや突発的な勢いに、子供慣れしていない彼は逐一驚かされてしまうらしい。 紅花のほうでも、そんなように反応されるのには慣れていないから、「あっ」と口に手を当てて、次いで恥じ入って顔を俯けた。 それを眺め下ろしながら、占部は短い息を吐く。 「確かに、少なくとも彼のお供は私よりあなたが良いらしい」 後頭部の辺りに降ってきた言葉に、紅花は急いで顔を上げた。 紅花はけして占部をないがしろにしようと思ったわけではない。 それを伝えようと口を開きかける。 が、紅花が声を出すより先に、占部が膝を屈めて目線を合わせた。
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