幕間の六・探偵と少年と

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すると、次々と新しい発見と喜びがある。 世間知らずの少年は、香しい煙をあげるモロコシ焼きや子供らの集るクジの景品、チョキチョキと糸切狭(いときりばさみ)のようなもので瞬く間に形を変える飴細工など、 並び立つ屋台の逐一に目を輝かせては短い感嘆の声をあげた。 中でもとりわけ紅花の気を惹いたのが水笛である。 それ自体に特別な魅力を感じたのではない。 見たところ、それは陶製の鳥の形をしており、尾の辺りが不自然に厚く、穴が空いていた。 置物にしては再現度が低く妙である。 これは一体何であろうかと、不思議に思って足を止めたのだった。 「これかい? これはこうして使うんだよ」 「あっ。ちょっと、お客さん」 立ち止まった紅花の隣に並び立ったトキワは、店主が止めるのも聞かずに並んだ小鳥の一羽をひょいと取り上げると、尾っぽの先を加えてピョロロロロと奏でて見せた。 途端、紅花の顔がパッと輝く。 大いに関心を寄せた。 これまで、紅花は陰間修行の一環として三味は基より幾種かの楽器に触れてきている。 その中に篠笛(しのぶえ)というのがあり、紅花はこれが大の苦手であった。 何しろ音が出ぬのである。 上手い下手は別として弾けば音の出る三味や鼓や琴と違い、笛はそもそも鳴らすことに技術を要する。 口をあてる角度や肘の高さや息の吹き込み方や、様々試したが紅花はまったくコツが掴めず、とうとう玉露に匙を投げられてしまった。 それに引き換え、この小鳥のなんと軽やかに鳴くことか。 トキワはなんの苦も無く、ちょんと尾っぽを唇に含んで息を吐いただけで容易に鳥を囀らせたのである。 紅花の心は一瞬にして奪われた。
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