幕間の六・探偵と少年と

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キラキラと早くも火花を散らしたように輝く紅花の目を見れば、もはや返事は無用である。 トキワは紅花の手を引いて再び歩き出した。 「橋げたの辺りに行こう。風が防げる。大事なお弟子に火傷をさせちゃあ、玉露さんに叱られてしまうからね」 祭りは昼間だけのものだったらしく、黒山であった人影はまばらとなり、 あれほど賑やかだった屋台の群れも、片付けるとなると速いもので、すでに骨組みを晒しつつある。 さざ波だつ川面が名残惜し気に夕日を乱反射させていた。 「どうしてこんなに()くしてくださったんです?」 向こう岸をゆく親子を遠目にしながら、紅花は何気なくトキワに問うた。 実質、紅花は今日一日を彼にもてなされたに等しい。 加えてこの後、花火までさせてくれると言う。 「言ったろう? 占部さんとお近づきになる口実が欲しかったのさ。君のことはもののついでだよ」 「それは、そうなんでしょうけど」 ここまでする義理もなさそうなものである。 紅花は納得しきらなかったが、トキワが積極的に語らぬことをこれ以上、詮索するのも憚られた。 代わりに違ったことを訊く。 「どうして占部の旦那様なんです? トキワさんなら他にいくらでも知り合いが居そうなのに」 トキワが人脈を繋ぐのは、無論、探偵稼業に役立てるためであろう。 男爵家の跡取りというのは、少々無理をしてまで繋がりたい相手なのだろうか。 世事に疎い紅花にはとんとわからない。
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