幕間の六・探偵と少年と

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「人間というのは貪欲な生き物だからね、持てる武器は持っておきたいものさ。あの人は軍人だしお役人とも縁がある。情も深そうだから、困った時にいかにも頼れそうだろう?」 茶化し気味に返事を寄越すトキワに、なるほどと紅花は頷いた。 事実、紅花は潮の一件で困っていたところを助けられている。 奪われた金子は戻らず、潮も無罪放免となってしまったが、手を差し伸べてくれたことに違いはない。 「それに――」 と、トキワはどこともない地面を見ながら言葉を繋いだ。 「あの人は毒にも薬にもならない」 「え?」 紅花が声を漏らし、ハッとトキワは目線を上げた。 一拍ののち、彼は何事もなかったようにりんご飴に歯を立てる。 パリ、と飴の砕ける音がした。 「まあ、要するに玉露さんを獲られる心配がないってことだね」 その台詞は取って付けた印象だったが、本音のようにも感じられた。 紅花はなんと会話を続けていいかわからず、宵闇の青さに紛れて彼の横顔を仰ぐ。 結局のところ、彼もまた玉露に懸想している一人なのだろうかと疑った。
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