幕間の六・探偵と少年と

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確かにトキワは客として玉露を買いもする。 しかしその実態は色恋を抜きにした仕事上の協定関係であり、であればこそ、玉露も仕事の席ではない私室にさえ彼を通すのではなかったか。 もしそれが、そうと思っているのは玉露の方だけで、実はトキワに下心があるのだとしたら、それは他の客に対して随分な抜け駆けである。 それほどトキワが狡猾とは紅花には思えなかったが、かと言って馬鹿正直で愚直な印象もまた抱いてはいなかった。 彼は飄々としているが頭の回転の速い切れ者である。 いかにも人好きのする好青年であるが、裏の顔がないとも限らない。 もしかして、今日、自身と祭りに付き合ってくれているのも、 後になって紅花が玉露に話せばその分、好感度が上がるだろうと、そんな算段があったりするのだろうかと紅花は考えた。 仮にそうだとしても楽しかったのは事実であるし嫌な気はしない。 紅花としては玉露の周囲に居る男らのうち、トキワが一等()いと思っている。 よしんば彼が計算づくの男だったとて、さしたる嫌悪感や警戒心は掻き立てらなかった。 むしろ協力を申し出たいくらいのものである。 尤も、紅花の幼稚な策略など百戦錬磨の玉露に通用するはずもないのであるが。 「もしかして」 と紅花は思いつきを口にする。 「前に哥さんに贈り物をしたのも――」 気を惹きたくての行為だったのか。 そう尋ねかけて慌てて言葉尻を濁した。 二度までも露骨な質問はぶつけるべきでないだろう。
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