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「うん」
恐らく一回りほども年下の少年に三度も同じ言葉で詰られ、それでもトキワはただ頷いたのみで苦い笑いを浮かべていた。
謝らぬ代わりに弁明もしない。
恐らく、あれほど強かな娼妓ぶりを発揮している玉露なら、自身が一人前の陰間として生まれ落ちたとも言える水下げの日すら、剛毅に祝って喜べるだろうと、そんなようにトキワは考えたのだろう。
悪意があってしたことではなかったはずだ。
しかし彼の想定に反し、玉露にもまだ繊細な部分は残っていたのである。
きっと後悔したし、申し訳なく感じたことだろう。
だが敢えて彼は、そのことを蒸し返すことなく、今ではもう以前と変わらぬ持ちつ持たれつ憎まれ口を叩き合う仲に収まっている。
気分屋な玉露が時間とともに水に流すのに甘んじる代償に、確固たる赦しも得ぬまま終わらせたのだ。
「すみません」
紅花は感情的になって誹謗したことを謝罪する。
結局のところ、紅花は部外者だ。
ただ勝手に玉露の思いを汲んだ気になって憤慨したに過ぎない。
誰にも許してもらえぬ苦しさを紅花は知っている。
トキワはそれを、不用意に玉露を傷つけてしまったことへの贖罪としたのかもしれない。
「いや、君の言うのは尤もだ。僕が甘く見過ぎていた」
そう言った彼の眼差しは鋭く、反して、鼻をすする少年の頭を撫でる手は優しく温かだった。
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