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とうとう観念してだんまりを決め込もうかと玉露が思いかかるところで、何やらバタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
「勘弁して下さい。困りますッ。困りますって」
叫ぶ声は親父のものである。
「ああ?」
と潮が動きを止めて顔を上げるのと、
「あなたがどれ程お困りか知れないが、それ以上に困っている者が居るのはご承知でしょう」
声がするなりパンッと激しく柱を鳴らして襖が開かれるのとは、ほぼ同時であった。
「は?」
玉露の口から罵詈雑言を潮にぶつけていた時とはまるで違う、気の抜けた声がもれる。
痛みによる生理的な涙の滲んだ目を、パチパチさせて開け放たれた襖の向こうに立つ相手を見た。
姿勢は引き続き手足の縛られた四つん這いという、キツイ上に無様な格好のままである。
獣のまぐわう形で後ろから突き立てていた潮のものも繋がったままだ。
両手を左右に広げて襖を開いた声の主は、断りもなく玉露の私室に踏み込み、つかつかと迷いなく潮の正面に向かった。
と、その直後、
「あん? なんだてめ――」
潮が柄の悪い難癖を言い切る前に、相手は着衣の乱れた潮の胸倉を掴み、一声もなく投げ飛ばした。
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