二幕の九・乱暴者と闖入者

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背負い投げであろうか。 お見事。と、状況を忘れて掛け声したくなるほど見事な技の決まりっぷりであった。 腰にあった内側からの圧迫感が一瞬にして消え去ったことを、どこかぼんやりと感じながら玉露は唖然として潮を見やる。 背中から畳に打ち付けられた酔っ払いは、目を回して倒れていた。 その向こうに脂汗だか冷や汗だかで顔中水浸しみたいになった店主の親父が、声を失くして突っ立っている。 恐らく無意識に揉み手しながら、顔色を青くしたり土気色にしたりしていた。 「お怪我は」 「え? ああ。さあ?」 短く問われ、玉露は常なら絶対しないような馬鹿みたいな返事をする。 まだ呆気に取られていた。 だいたい、どうしてここにこの男が居るのか。 状況がさっぱり呑み込めない。 突如現れ、潮を投げ飛ばしたのは、紅花(べにばな)を連れて祭りに行ったはずの占部(うらべ)粋正(きよまさ)その人であった。 「すぐに外しますので、もう少し辛抱していて下さい」 言って占部は膝を着き、玉露の腰の辺りに手をやると、手首に縛り付けられた細帯を解き始めた。 固結びにされた上、暴れたり引っ張られたりでより強固になった結び目に苦心しながら、男はなるべく目線を余所へと逸らしている。 覆うもののない玉露の裸身を見てしまわないよう、気を遣っているのだろう。
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