二幕の九・乱暴者と闖入者

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無様なことこの上ない有様を晒しながら、玉露はこの男は根っから紳士的なのだなあと妙に緊張感のない関心をした。 そりゃあ、巷の女子どもが惚れるのも仕方ない。 足首を縛るベルトも解くと、占部は畳に落ちていた襦袢を拾って玉露の肌を覆った。 玉露はいそいそと袖に腕を通しながら、まだポカンとした表情で周囲を目線を彷徨わせる。 ふと、姿見に映った自身に目が留まり、愕然とした。 赤く腫れた両の頬、噛まないよう気を配っていたつもりがいつの間にか切れている唇の端、当然、化粧はしておらず、髷は乱れ、 羽織っただけの襦袢はしわくちゃで、抓られた胸が無意味に充血し、肌には掻き傷やら爪痕やらが浮かび、腰から下は裸同然。 なんと惨めであることか。 グ、と喉の奥からせり上がるものがあった。 潮の横暴は常のこと。 無体を強いられた挙句に惨めな有様となるのも慣れたもの。 とっとと湯水で肌を洗い、また着替えてしまえば済むことだ。 しかしこれを客に見られたと思うと、腸が煮えくり返る。 「()――」 出てお行きッ。 そう強く命じようとして、しかし玉露は続きを呑み込んだ。 ここで憤慨して客に当たったのでは寺川町(てらかわちょう)一の陰間の名折れ。 差し当たり礼を述べ、なんなら泣いて縋って甘えるくらいで丁度いい。 だがそれもまた、彼の意地が許さない。 キリリと高く切れ上がった(まなじり)を更に高くして、玉露は鏡に映り込む自身を()めつけると、その眼差しを店主に向けた。
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