二幕の十・絡むいと

2/18
前へ
/602ページ
次へ
とは言え、これに紅花が素直に従うと考えるのは少々無理があるようでもある。 仮に占部が猪田の勢いに呑まれ、押し切られたとして、紅花も一旦は猪田に付き従うかもしれないが、すぐに思い返して断りを入れそうなものだ。 占部を説得し、且つ、紅花にも反駁されない相手となると、猪田よりはトキワに軍配が上がる。 どこで嗅ぎつけたか、占部が紅花と祭り見物をすると知ったトキワが首を突っ込む、という構図はまったく考えにくい程のものでもなかった。 「さてはあたしに恩を売ろうって魂胆だね。もしくは占部の旦那に近づく口実に使ったか。厚かましいったらないよ」 と、憂さ晴らしも兼ね、声に出してくだを巻く。 なかなかの名推理である。 玉露自身、占部に紅花の遊び相手が務まるとは元より考えていない。 祭りへ行きたがっているようだからお供してやって欲しい、と頼んだのは、単に占部を少しでも早く店に呼び寄せる理由が欲しかったからだ。 それと言うのも、前に会った時のことに由来する。 あれもまた間の悪い出来事であった。 猪田と二人、野外での薪能を観に出向いたものの途中で疲れ、道ばたで肩寄せ合ってグウスカしているところに占部がやって来たのである。 決まり悪いことこの上ない。 しかし玉露はこれを逆手に取り、あえて猪田に甘えて縋り、占部の反応を窺った。 要は嫉妬心を煽ったのである。
/602ページ

最初のコメントを投稿しよう!

211人が本棚に入れています
本棚に追加