二幕の十・絡むいと

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これは一見、功を奏したかに思われた。 占部の白い手袋が軋るほど拳が握られているのを見て、これは妬いているなと、少なくとも玉露はそう理解し、意図的に畳みかけた。 そして策が成ったことを内心にんまりしていたのである。 別段、そんなことはせずとも占部は既に上客の仲間入りをしていたし、つまり玉露に入れ込んでいた。 だからわざわざ煽り立てる必要はなかったのであるが、そこはそれ、玉露は男を手玉にとって遊んでなんぼと、翻弄し玩弄するのを喜びとしている底意地の悪い性格であるから仕方がない。 いかに稼ぎを伸ばすかよりも、いかに男を玩具に楽しむかが大事だったりするのだ。 占部は真っ直ぐな男である。 きっと、自身の内に沸いた嫉妬心を覆い隠さず、真っ向から受け止めて、玉露を求めるに違いない。 約束の席を待ちきれず、予約をねじ込み会いたがるか、或いは(ふみ)のひとつも寄越すか。 玉露はその瞬間を待ち侘びた。 釣り糸を垂らして獲物が掛かる瞬間を存分に味わおうと、虎視眈々と待ち構えていたのである。 にも拘らず、占部からは一向、音沙汰なかった。 ようやっと他の客を押しやっても自分の席を設けたいと乗り込んできた者があったかと思えば、予想外に相手は貧乏作家の篠山(ささやま)でという始末。 あれはあれで一興ではあったが、玉露としては狙いが外れて不服である。 しばらくはウダウダとしていたが、そのうち飽いて、自分から占部を呼び寄せることにした。
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