二幕の十・絡むいと

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茄子紺(なすこん)の華やぎつつも品の良い着物に濃い紅色の衿を挿し、(うちぎ)は黒を基調に金糸の輝く絵羽紋様、 前に垂らす太帯には夏めいて鮮やかな露草色(つゆくさ)縮緬(ちりめん)が重ねられ、絢爛さと涼感のいずれもを醸している。 腫れていた頬は白粉で整えられ、詫びる言葉と裏腹に紅を注した唇はキュウと口角を上げ、紫を刷いた目元はいかにも気高く強い眼光を宿していた。 色を売る者を下賤と蔑む人は多いが、この圧巻たる風貌を前に、侮辱の言葉を吐きつけられる者なぞ居ないだろうと思わせる。 もしもそれでなお、蔑視を向ける者があったとすれば、それは悔し紛れのやっかみである。 占部はしばし見惚れて言葉を失くした。 その占部の視線を浴びながら、淀みない足取りで絹ずれを立て、上座へと横切ろうとした玉露は、つと床の間の前で立ち止まり、肩を落として小さく息を吐いた。 「済まないね、後で()け替えるつもりだったんだけど」 玉露はその場で膝を着き、床の間を飾る生け花へと手を伸ばす。 紅紫を滲ます百合が重たげに首を垂れていた。 「あの子が生けるとどうにも長持ちしなくって。咲き切ったのばかり選んじまうんだから当然さね。奥ゆかしさってもんがない。けどま、素直でいい子だろ」 言って、玉露は花へと落としていた目を上げた。 衿を抜いてより長く見える首を捻り、流し目に占部を捉える。 占部は咄嗟に言葉を詰まらせた。
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