二幕の十・絡むいと

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『あの子』と言うのが紅花のことであろうことは占部にも察しがついた。 しかし占部はかの少年について、特段の感想を持ち合わせない。 玉露の言う通り、素直な子供だと思いはしたが、子供とは元来、そういうものではないだろうか。 無垢で純真であることは幼い子らの特権だ。 しかし甘味を売る一方で売春宿を兼ねる『梅に鴬』に籍を置き、いずれ陰間として娼妓を生業とすべく励む子供としては、擦れたところのない随分真っ当な性根の持ち主であるのかもしれなかった。 「彼を他人(ひと)に預けてしまった事は申し訳ない」 紅花の人となりに関する言及は避け、占部は約束を違えたことを詫びる。 その上で、 「あのような場に踏み込んだことは、あなたの名誉を傷つけることだった。申し訳なく思っています」 改めて、あの場に居合わせたことを深く陳謝した。 こうして堂々と、これまで会ったどの時とも変わらぬ艶美な陰間ぶりを見せている玉露を前にしている今だからこそ、占部にもわかる。 潮とのあの騒動は、彼にとって何ほどでもない日常に過ぎぬのだろう。 取り立てて助けが必要な場面などではなかったのだ。
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