二幕の十・絡むいと

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玉露はまたも瞠目し、それから訝し気な眼差しとなる。 占部は生真面目な男である。 勤勉実直、清廉潔白を絵に描いたようで、本来なら陰間茶屋になど通いそうもない御仁だ。 宴の最中でさえ背筋の伸びた姿勢を崩さず、間違っても羽目を外すことなどなく、常に厳正さとか礼節だとかを重んじているふうである。 そんな男であるから、凡そ人の言葉を遮って自身の主張を展開することなどありはしない。 あるとすれば、それは軍人としての彼の責務が優先されるべき非常事態のみだ。 そんな占部が二度までも玉露の言葉の終わるのを待たず、まるで断罪するかの如き厳しさを孕んだ声で否定を告げた。 これは一体どういうことか。 そこに憤りがあることは玉露にもわかったが、その由が計れなかった。 潮の横暴に(いか)っているのではないと言うなら、他にどんな理由があるのか、見当がつかない。 玉露はしばし黙って男を見つめた。 まるで拮抗する何かがそこにあるかの如く、占部もまた、疑問を浮かべつつも気の強い玉露の眼差しを見つめ返す。 パラ……と、微かな音がした。
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