二幕の十・絡むいと

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ぱら……、パタパタ、ぱらら、と、途切れ途切れな音が後に続く。 雨粒の軒を打つ音であった。 いつしか日は陰り、千切れ雲は雨雲へと姿を変えている。 格子の嵌った窓から冷えた風が吹きつけ、座敷を照らす蝋の灯を揺らした。 占部の端整な面立ちに落ちる影もまた、大きく伸び縮みする。 「青嵐ってやつかね。つくづくツキのない子だよ」 (かんざし)が震えて金属の擦れ合う音を奏で、玉露は窓を振り返りながら祭りに出向いた紅花を思った。 まさか占部が本当に紅花一人を置き去りにしたとは思わないから、身元の心配はしていない。 ただ折角出掛けたのに雨に降られるとは、少年の不運をちょっと嘆いてみたのみだ。 「なんだか旦那までうらぶれちまってるね。何がそんなに気に入らないんだい」 糸を垂らして釣れぬなら、タモでも使って掬い獲ってしまえとばかりに呼び寄せたはずの占部はこの有様で、玉露はちっとも面白くない。 しかしそれを言っても今更始まらぬから、優しい声音で占部の傍へと寄っていく。 「あんた以外の男に好き放題されるあたしの妄りな身上が憎たらしいってんなら、こればっかりはしょうのないことだけど」 「そうではない」
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