二幕の十・絡むいと

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話しつつ占部の膝に置こうとした玉露の手を拒むように、彼は短く言い切った。 その上で、声を続ける。 「私が憎くて堪らないのは、(おのれ)自身です。あなたに申し訳がなくて、悔やまれてならない」 (ほぞ)を噛む。 という言葉がある。 占部はまさにそんな具合で、眉間に深くシワを刻み込んだ顔を俯けた。 「別に、そんな悔やむほどのことじゃあ……。そりゃ、あんなみっともないところ、見られちまって嬉しかあないけどさ」 占部の言葉を、助けが要ると思い込んだためとはいえ、陰間の私的な時間を踏み荒らしたことを悔やんでいるという意味と捉えた玉露は、そんな慰めを口にしたが、占部はこれにも強く否定を口にした。 「腹立たしいのは今日のことではない。あの夜、自身の抱いた思いが許し難い」 言って男は再び玉露を見据えた。 その決然とした、睨むような鋭い眼差しは、目の前にある玉露の顔にではなく、実際には占部自身へと向けられたものなのだろう。 同時に、彼が何について語っているか、玉露が考え及んでいるかを(ただ)す視線でもあるようだった。
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