二幕の十・絡むいと

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猪田の紹介により、占部が『梅に鴬』の客となったのは比較的最近のことである。 玉露はすでに酸いも甘いも噛み分けた熟練の陰間として出来上がっていた。 その美しさもさることながら、占部が魅せられたのは玉露の振る舞いそのものである。 端的に言えば高邁であった。 紫の刷かれた(まなじり)高い双眸の、いかにも気の強く炯々(けいけい)とした眼差し。 一段高い場所から相手を値踏みするような、傲慢さと不遜さがあった。 真っ赤に塗られた唇にはくっきりと笑みが浮かび、しかしそれは親しみやすさや可愛らしさとは縁遠い。 人を食った、しかし嘘偽りの感じられない、不敵な笑みである。 男にしては高く、女のそれよりは低い声は甘やかで、世辞も言えばおだてもするが、どこか歯に衣着せぬ口ぶりで、挑みかかるような勢いと歯切れの良さを感じさせながらも気怠さと隙を匂わせる。 計算された色香と駆け引き。 それを商売道具に楽しむ剛毅な生き様を占部は玉露に見た気がした。 そしてそれを『高潔』と彼は捉えたのだ。 己が信念と矜持を持ち、陰間という在り方を貫く、傲岸なまでに気高く強かな男。 占部が魅せられ惚れ込んだのは、そんな玉露の人となりであった。 「なのにあなたは、自らを卑しい者とし、あまつさえ同情を得ようとした。本心を吐露するように、自己卑下を口にし、憐れみを欲した」
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