211人が本棚に入れています
本棚に追加
「わかるかい。ちっとばかしいつもより熱いだろ。どうしてだと思う?」
「あの男に打たれたせいですか」
分かり切ったことを敢えて言わせて、玉露は紅を引いた唇を笑ませる。
緩々と瞼を閉ざし、頬ずりするように占部の手の平に押し付けた。
占部は固唾を呑んでその様を眺めている。
閉ざした時と同様に、玉露はゆるりと瞼を上げると、睫毛の奥から流し目をした。
「こっちはなんだかわかるかい。どこぞで噂を聞きつけた小娘だか女狐だかが、あんたの名を騙って文を寄越したんだよ。開けた途端にこの様さ。指が切れて血が滴った。もうとっくに止まってるけどね。可哀想だろう?」
左の手は占部の手の甲に添えたまま、玉露はもう一方の手を彼の目の前に翳して指先を見せる。
サックリと切れた跡が細い一直線になって赤く刻まれていた。
占部の眉間にシワが寄る。
彼が口を開きかかるより先、玉露が言葉を続けた。
「けどね、可哀想なのはあんたの方さ。陰間なんぞに入れあげちまって、どこの誰ともわからない相手にまで知れ渡ってる。大事な跡取り息子なんだろ、こんな醜聞で回っちまって、旦那は平気なのかい」
「それについては、あなたが気を回すようなことではない」
「だろうね」
最初のコメントを投稿しよう!