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幕の裏の五・薄闇の這う
花輪でいっぱいの廊下の角のやや薄暗い辺りに二人の男が立っている。
一人は派手な染め抜きを肩肌脱ぎにした背を壁に預け、片手にキセルを粋な角度で構えている。
今一人はその向かいに立ち、小さい花なんぞ挿した中折れ帽を目深に被って手を添えていた。
「あなた、どうかしているんじゃないですか」
らしくもなく陰鬱な声を発したのはトキワである。
鳳ノ介は否とも応とも答えずに、笑みを形作る唇にキセルの金口を食んだ。
ゆったりと煙草を喫む。
「彼はまだ仕込みも受けていないでしょう。それを拐かした上に手籠めにしろだなんて、正気の沙汰と思えない。僕がそんな依頼を引き受けるとお思いですか。
あなた、何を考えているんです?」
ふふ、と含み笑いと共に煙がくゆった。
「ただの親心というものさ。いつまでも愚図愚図と腹の決まらねぇ出来の悪い弟分が心配でねえ」
とても本気とは受け取れないと、トキワは首を左右に振る。
見下すように目を眇めて首尾を問う相手に、彼は再度、首を左右した。
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