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尤もそんな浅はかな紅花の考えなどお見通しの玉露は、あっさりと彼が使いを引き受けたことに一瞬意外そうにしたものの、すぐに納得してひらひらと手を振った。
「なんだって構やしないよ。親父に言って適当に小遣い貰いな」
「はい」
と返事したものの、紅花は訝しむように玉露を見る。
玉露の『なんでもいい』が本当に『なんでも』良かったことなどないのを経験として知っていた。
なにせ彼は気分屋な上に大層口喧しい文句言いだ。
機嫌が悪いとなんにでもケチをつけたがる。
機嫌が良くても紅花をコケにせずにはいない性悪ぶりだ。
どうせ後からあれこれ文句をつけられるのなら、せめてそもそもそれを決めたのは玉露であると、紅花としては反駁の余地を残したいところである。
が、それはそれで狡猾なやり口だと非難されるには違いないのであった。
まったく、玉露という男は実に面倒な人柄である。
これを師とするのは大変な苦労と言えよう。
たまに紅花は自分でもどうしてこんな相手を尊敬し、慕っているのか不思議に思う。
思うけれども、かと言って嫌いにはなれないのだから益々不思議で、且つ致し方ない。
「銀鍔にしますからね」
一応のところ念押しして、紅花は雑巾片手に玉露の部屋を後にした。
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