三幕の二・玄月堂

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トコトコと歩く紅花は七つ坂を上がってしばらく進んだ辺りで足を止めた。 七つ坂というのはその名の通りに七つ辻になった坂道である。 そこを千寿さんの方角に上って糀屋の裏から……と、道しるべの呪文は繰り返せども、糀屋なる店が見当たらぬ。 「間違えたかな」 まだそう遠く離れてはいない七つ坂を振り返る。 七股にも別れた道はどれがどれだかわかりづらい。 単純に東西南北に割り振れない為、各々その先にある寺社や地蔵などの名称で呼ばれていた。 紅花が進むべきは「千寿さん」と呼ばれる道である。 千寿さんは寺の名だ。 しかし七つ辻のすぐそばにいきなり寺が経っているはずもなく、その坂を道なりに行くといずれ千寿寺に着くというだけのこと。 パッと見には見分けがつかぬ。 観光客の多い土地柄、道の端々に木製の看板などが立っている場所も多いものの、 七つにも別れた道を示す矢印はほんのちょっとの角度の違いでどの道を指しているのか不明瞭だ。 引き返そうか、もう少し先まで様子を窺って進んでみようか、 キョロキョロと前に後ろに頭を振って迷うところに、丁度良く人が通りがかった。
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