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「紅花くんはお出掛けですか」
「まあね。ちょいと使いに走らせてるよ」
菓子を携えてきたトキワの手前、同じく餡子絡みの菓子を買いに行かせているとは言いにくい。
内容が重複していることに気を遣ってではなく、単に同じ発想をしていたと気取られるのが嫌だからである。
前触れなく娼妓の私室に押し掛けるトキワの図々しさも相変わらずなら、
無意味なところで意地を張る玉露も玉露で相変わらずだ。
「一人で、ですか?」
折角だから、階下の店からちょっといい煎茶でもくすねてこようと部屋を出かかった玉露は、トキワの問いかけに眉間を寄せた。
不愉快気に男を見下ろす。
「だったら何だい。あんなのに一々付き添いなんてつけてらんないだろ」
突き放す口ぶりで返事した。
別に話すのが嫌なのでも内容がどうこうというのでもない。
しかし玉露は好物の手土産に機嫌よく茶を淹れに行こうとしているのある。
その足を止めさせて話を振ってくる相手の態度に気分を害していた。
図々しいのはいつものことだが、どこぞの猪田やなんかと違ってトキワは場の読める男である。
こうした話しかけ方はらしくない。
「ええまあ、それは勿論そうでしょうがね」
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