幕間の七・軽羹日和

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「なんだってあの子が拐かしなんかに遭うんだよ。誰が身代払うって? ケチな親父がびた一文だって払うもんかい。  あたしだって御免だよ。あんなチンチクリンの役立たずに身銭が切れるかってんだ。  よくもまあ、そんな下らないこと思いつくもんだね。急にどうしちまったんだい。帝都で流行りでもしてんのかね」 三文カストリ誌に影響されたのか。探偵稼業が聞いて呆れる。 と、玉露は腕組みしていた手で腹を抱えながら、散々に相手を扱き下ろす。 フッと、トキワが向けていた背を揺らした。 眉尻を八の字に下げた人好きのする笑みで玉露を振り返る。 「いやあ、先日芝居を観に行きましてね。華族の御令嬢が怪人に浚われるっていう。なかなか面白かったもんで便乗してみたんですが、お気に召しませんでしたか」 ははは、と青年は朗らかに笑って頭を掻いた。 「つまんないことしてんじゃないよう。大体、華族の令嬢とあの子とじゃ、月とスッポンじゃないかい。差がありすぎだね」 「酷いことを仰る。手塩にかけた一粒種じゃありませんか」 「あたしが産んだみたいに言うんじゃないよ。まったく、減らず口だねえ」 ああ笑った笑った。と、片手の平をヒラヒラさせて玉露は満足げに出てゆこうとする。 そのもう一方の手の首を、トキワは唐突に強く捕まえた。
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