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「ほんとにそうお思いで?
早く陰間の職は譲って自分のところに来い。あのお人が暗に仰ってるのは、そういうことではないんですか」
当たり前なふうにトキワは言って、真意を問うよう首を傾げる。
その柔和な仕草と口ぶりは、先刻までとは打って変わって常のトキワらしい様子である。
まるで何事もどこ吹く風と、飄々としてこだわりのない態度だ。
玉露はそのやたらに好青年らしい微笑みを、冷ややかに一瞥した。
「だとしてもあんたに言われる筋合いじゃないね。そもそも、真に受けるような話でもないだろ」
フンッと鼻息を荒くした。
「あの方の本気をお疑いになるので?」
「そうは言わないけどさ。――あんた、いい加減しつこいね」
これではいつまでたっても立ちん坊である。
茶を振る舞ってやろうという気もすっかり削がれた。
玉露はどっかとその場に腰を下ろすと、裾の乱れるのも構わず胡坐を組み、トキワの膝の前に据え置かれたままの菓子箱に手を伸ばす。
バリバリと雑な手つきで包装紙を剥き、箱のふたを取ると大口開けて中の一つを放り込んだ。
頬袋をいっぱいにして咀嚼する。
品行悪く不細工なその様を、トキワは慣れた様子で揶揄いもせずに、自身も白くモチモチした皮に包まれた菓子に手を伸ばした。
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