幕間の七・軽羹日和

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ゴクリと細く筋張った首に突き出した喉仏を上下させ、口いっぱいの軽羹を嚥下した玉露は早くも二つ目を手にする。 そうして今度は両手の平の間を行ったり来たりと遊ばせながら話し始めた。 「哥さんが冗談や義理だけであたしを誘ってるとは言わないよ。けどねぇ、あたしがあの人に貰われたって、梨園の妻になれるわけじゃなし、後継ぎだって産めないんだからさ、周りが怖くって敵わないよ」 世間話の気軽さである。 応じるトキワもまた、同様の軽やかさで会話した。 「そうは言ってもあれだけの方ですからね、お妾の一人や二人、養ったって許されるでしょう」 もぐもぐと手前で持ち込んだ土産を食べつつも、彼は汚い咀嚼音などさせずに器用にしゃべる。 「だとしてもあたしゃ御免被(ごめんこうむ)るね。だってあの人、長生きしそうにないじゃないさ。  後家ならまだしも、男妾(おとこめかけ)が養い(にん)亡くしてどうしろってんだい。追ん出されるのがオチさね。  いい年こいて食いっぱぐれるなんざ嫌だよう」 呵々(かか)と玉露は自らの言に高笑う。 なるほど確かにとトキワも笑って頷いた。 「この世で長く添い遂げる、って感じの方じゃあないですね。まあ、それを言ったら玉露さんもそんな感じはしませんけど」 「なんだい。あたしだってコレって決めたら一途かもしんないじゃないさ。ヨボヨボんなるまで肩寄せ合って暮らしたりなんかしてね」 言いながらも玉露はすでに肩を震わせている。 自分でもそう思っていないのが明らかだ。
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