幕間の七・軽羹日和

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「花なんてのは、パッと咲いてパッと散るのが一番なんだよ」 「似合いませんね」 「だよねぇ」 ゲラゲラと玉露は声を立てて笑い、半分に割った菓子を口に放り込んだ。 末永く誰かと添い遂げる晩年も想像し難ければ、かと言って佳人薄命と儚く散るのも不似合いである。 図太く、粘り強く、豪胆に、玉露は咲き誇るばかりの大輪の華に等しい。 いずれ枯れゆくさますら淫靡にして華美であろうと思わせる。 そしてどこまでも孤独だ。 「この世で添い遂げられないのなら、心中――なんて手立てもない事はないのではないですか」 「なんだい。持って回った言い方だねぇ」 何気なさを装って投げかけられた質問に、玉露は残り半分の軽羹を放り込みつつ、空になった手をひらひらと振った。 「古臭い小説じゃあるまいし。どこの花魁と若旦那だって話だよ。今時、そんなの流行らないね」 「おや、篠山(ささやま)の先生がお聞きになったら泣きますよ」 「は?」 何故そこで篠山の名が挙がるのか。 不審がる玉露にトキワは売れ損ないの貧乏小説家の最新作について語った。 格子窓の向こうは尚もしとどに雨である。 すっかり茶色く枯れた花びらも失せた梅盆栽は、飛沫を待ち望むかのように、青々と深い緑の葉を茂らせていた。 その周囲には四角く細い竹の籠。
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