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となればさしもの店主も、素人ばかりでは申し訳ないと多少なり良心の呵責を覚えるのか、或いは単なる商売っ気か、一人だけ住み込みの陰間を囲っていた。
と言って、陰間とは名ばかりの芝居とは縁もゆかりもない、要するにただの男娼妓である。
しかし芸事の一通りを身に着け、装いも仕草も女以上に女らしく躾の行き届いた様は、何処に出しても恥ずかしくない陰間そのものであった。
名を玉露という。
無論、源氏名だ。
親に与えられた名はとっくに忘れたと嘯いていた。
紅花は、そんなはずはないと疑る一方で、この男であればそういうこともあるかもしれないなどと思う。
拗ねて甘えて舌先三寸、板についた娼妓っぷりで数多の男を手玉に取る彼は、これが天職であるかの如くだ。
それ故もはや傍目にも、他の生き様など想像がつかない。
玉露はそんな男であった。
紅花は玉露の部屋付きの小僧である。
遊郭で言うところのお禿で、つまりは陰間の見習いだ。
やはり芝居だ歌舞伎だといったものとはなんらと関係のない出自であり、店主が追々は玉露の後釜にと雇い入れた表向き住み込みの従業員である。
紅花自身、生家を出る時には、親に丁稚奉公と言い含められた。
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