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つまるところ篠山は、なまじ人気が出たために世間の評判が気になり、この先をどう綴っていいものか筆に迷いが生じてしまっている。
と、そういうことのようだ。
篠山にとっては深刻極まりない状況かもしれないが、紅花にとっては実にどうでもよい。
第一、執筆業のなんたるかなど知る由もない少年に助言できるわけもなかった。
「どうか気を落とさずに」などと、在り来たりな慰めを言うのがせいぜいである。
それも子供から大人にかける言葉としてはそぐわない。
「……」
はぁ……と何度目かの情けない溜息を吐く男が足元を見たままなのをいいことに、
紅花もまたお愛想の笑みすら引っ込めて沈黙した。
少年にしてみればそんなことはどうでよいから、ともあれ玄月堂へ辿り着きたい。
その道案内を買って出たはずの男は雨宿りの立ちん坊で一人勝手に憂鬱に浸っている。
これを解決せずにはこの迷子から抜け出せそうもないが、しかし打つ手はなく、一から十までままならない。
苛々と爪を噛む思いだ。
しかしそんな仕草をしようものなら、後で玉露に張っ倒される。
見習いとは言え陰間は陰間、陰間の躰は爪の先に至るまで大事な商売道具だ。
せめて誰か、知り合いでなくともいいから篠山に替わって道を教えてくれる者が現れてはくれないものか。
虚しい願いを込めて、紅花は心の内で穏やかに佇むお地蔵様に手を合わせた。
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