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勿論、玉露はカンカンである。
――と、思いきや。
「はあ? なんだってあんたが気の悪い小娘を連れて来るんだい。あんたに頼んだのはアンコロ餅だろ」
頼まれたのは銀鍔である。
とは、賢い紅花は反論しない。
意外な人物の来訪に玉露が怒気を失くしているうちに、取り急ぎ事情を説明しようとした。
が、そんな小賢しい目論見を看破したわけではないのだろうが、
当の彼女が先に口を開いて、
「どうも迷子になったらしくてね。変な男に連れ回されていたから、あたしが貰ってやったんだ。丁度、通りがかったもんだからさ。
それより姐さんに話したいことがあるんだよ。何、大した用事じゃないんだけどね、わざわざ姐さんに話すようなことでもないし、けどまあ耳に入れておいてもいいかと思ってさ。
ちょっと時間をおくれよ。姐さんが忙しいのは知ってるけど、ちょっとも時間がないなんてこともないだろ? あたしだってこう見えて忙しいんだからお互いさまってことにして。
ここの菓子で良ければ奢ってやるよ。梅饅頭は食べ飽きてるだろうから、梅のしならどうだい」
と、簡潔に経緯を語ったうえで紅花をそっちのけにした。
本当に、猪田以上に舌の回る女である。
歯切れのいい物言いのためか、勝手なことを言っているわりに猪田のような無神経さは感じさせないのが不思議ではある。
ともあれ相当な早口だ。
「あんたねぇ……。ったく、相変わらずなんだから」
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