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胸元も露わに着崩れた襦袢姿で上がり框の向こう側に立った玉露は、
ほぐれきった鬢に指を突っ込んでボリボリと掻きながら大仰に溜め息をついた。
そうして俯きがちになったまま、彼はチラリと目線だけ上げて彼女を見る。
眦高い双眸が、何か訝しがるような尖く冴えた眼差しを送った。
しかしそれも一瞬のことで、
上背の足りない紅花からは俯いた玉露の顔がよく見えた為、そんな気がしたのだったが、
理由はわからず、また気のせいだったのかもしれない。
彼は二度目の溜め息をしながら今度は顎を上げ、
相手を見下すような角度で目線を使いながら、面倒くさそうに口を開いた。
「梅のしだって食い飽きてるに決まってんだろ。
大体あたしは今から風呂に入ろうとしてたんだよ。腹に食いもん詰める時間なんてとっくに過ぎてるってんだ。良いから奥に上がんな」
くいと顎を使って廊下の奥を指し示し、玉露は三度目の溜め息に肩を落としながら踵を返した。
その合間に紅花を睨めつけるのも忘れない。
小言されずに済んで胸を撫でおろしかけていた少年は、反射的に直立不動になって、
次いで慌てて頷くと、来客用の茶菓子と煎茶をもらうために台所へと駆け込んだ。
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