三幕の五・動転

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ギュッと固く目を瞑った紅花は、 しかしいつまでも激しい叱責の言葉や打擲による炸裂音、玉露の(くずお)れる物音などが聞こえてこないことに、恐る恐る目を開けた。 「(あに)さ――」 「いいから黙っていろ」 そこで紅花が目にしたものは、抱きすくめられて驚きの色を隠せない玉露の様子と、 打ち上げたはずの腕を堅く玉露の躰に巻き付けて、強く抱いている鳳ノ介の姿であった。 声を塞がれた玉露は、赤く濡れそぼった紅の唇を数回、もの言いたげに震わせた後、 ゆっくりと睫毛を伏せた。 同時に四肢の力を抜いたのだろう、頼りなげな重みを相手へ預けきったことが、紅花の目にもなんとはなしに伝わる。 鳳ノ介はそれをしかと受け止め、回した手で玉露の大ぶりな日本髪の背を撫でた。 揺らめく灯篭の灯に、重なった二人の影が畳の上で伸び縮みしている。 玉露の濃い睫毛の落とす長い影もまた、白く塗られた頬の上で伸び縮みしていた。 膳の上の料理は殆ど手がつけられていない。 紅花が生けて玉露が手直ししたアジサイが、淡く照らされ曖昧な色の花びらを広げていた。
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