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ギュッと固く目を瞑った紅花は、
しかしいつまでも激しい叱責の言葉や打擲による炸裂音、玉露の頽れる物音などが聞こえてこないことに、恐る恐る目を開けた。
「哥さ――」
「いいから黙っていろ」
そこで紅花が目にしたものは、抱きすくめられて驚きの色を隠せない玉露の様子と、
打ち上げたはずの腕を堅く玉露の躰に巻き付けて、強く抱いている鳳ノ介の姿であった。
声を塞がれた玉露は、赤く濡れそぼった紅の唇を数回、もの言いたげに震わせた後、
ゆっくりと睫毛を伏せた。
同時に四肢の力を抜いたのだろう、頼りなげな重みを相手へ預けきったことが、紅花の目にもなんとはなしに伝わる。
鳳ノ介はそれをしかと受け止め、回した手で玉露の大ぶりな日本髪の背を撫でた。
揺らめく灯篭の灯に、重なった二人の影が畳の上で伸び縮みしている。
玉露の濃い睫毛の落とす長い影もまた、白く塗られた頬の上で伸び縮みしていた。
膳の上の料理は殆ど手がつけられていない。
紅花が生けて玉露が手直ししたアジサイが、淡く照らされ曖昧な色の花びらを広げていた。
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