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「本当なら、叱ってやらにゃあならねぇんだろうよ」
言って鳳ノ介は、しかしいかにも優しい手つきで玉露の片頬を掌に収め、それからそれを滑らせて顎を持ち上げる。
つんとした顎先を鳳ノ介に向けたまま、玉露は伏し目がちにしっとりとした眼差しを彼に注いだ。
「好い男に育ったな」
「こんな形してかい?」
皮肉めいて、玉露はキュウと口角を上げる。
「よく出来てるってんなら、哥さんがそう仕込んだからだよ」
顎を捉える男の手を指に絡め取り、玉露は甘えるような頼るような仕草で唇をつけた。
白、紫、薄藍に金糸の綾なす朱色と、幾重にも重ねた衿の合わせ目に玉露は鳳ノ介の手を誘う。
それをスルリと逃れて、鳳ノ介は再度、玉露の着飾った肩を抱き寄せた。
甘やかに睨みつけるいじらしい眼差し。
口づけをねだる顔の角度と、無防備を装って晒される喉首。
重くなく、しかし軽くもなく、そこにあることを存分に意識させるよう腿に添えられた片手の平。
玉露の織りなし醸し出し訴えかける陰間としての本領を発揮した色香に満ちた姿態。
普通ならば騙される。
先ほど、ほんのちょっと自身の話を聞いてなかったらしいことなど、よほどの客でも忘れ去ってしまう。
そのくらい酔わされる。
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