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「大丈夫だ」
だからそう彼はそう言ってやった。
そうして優しく頭を撫でてやった。
「どうして……」
発された呟きの意味を鳳ノ介は正しく理解することはできなかったが、
この場合は『何故、叱るのではなく慰めるのか』という問いかけだと捉えることにした。
「鬼の霍乱、と言う事にしてやっても構わねぇが、敢えて訊くのかい」
こくと玉露は腕の中で頷く。
「本当に、立派になっちまいやがって」
鳳ノ介は苦笑を浮かべた。
そんな表情をすることは、この男にしてみればそれこそ鬼の霍乱と言えるくらいに珍しい。
「その立派なおまいが、立派に仕事しねぇのがあんまり珍しいから絆されちまったんで」
もっと言うなら、憐れに思えたのだ。
何から何まで気を遣って気を行き渡らせて振る舞うよう鳳ノ介は確かに躾けた。
けれども玉露はそれを上回り、いや、すっかり自分のものにして、気なぞ張らずともその通りの振る舞いができるよう成長した。
だから悠々と泰然と剛毅なままに手軽く男どもを手玉に取って、仕事と称して遊んでいるも同然、玉露はそういう根っからの娼妓なのである。
気が散っていようと上の空だろうと、実のところどの道、上手くやれる男なのだ。
にも拘らず、出来なかった。
出来ていないことを指摘され、直そうとしてやはり出来なかった。
満足に出来ていないことは鳳ノ介に言われずとも、誰より玉露自身が自覚していて、でも出来ない。
そのことに一番狼狽えているのは、他の誰でもなく彼なのだった。
それが鳳ノ介には憐れに感じられる。
どういうふうにかは分からない。
玉露を憐れんだことなぞかつて一度もなかったつもりだ。
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