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まだ子供だった時分、玉露は折につけ熱を出した。
耐え兼ねた心が声の無い悲鳴を上げ、肉体がそれを訴えるのだ。
それに気づかぬ程、鳳ノ介は鈍くない。
今よりずっと若い青二才だったとはいえ、鋭い観察眼と頭の切れは備わっていた。
だが甘やかすことはしなかった。
むしろキツく当たったと言っていい。
熱があるからと休むようでは娼妓は務まらぬ。
況してや鳳ノ介は役者の卵であるが故の正しき意味での陰間である。
怪我や病気で舞台を降りるなど役者には許されない。
なればその下積みとしての娼妓修行でも同じこと。
熱に震えて彼の手元が狂えば、それが三味の稽古の最中ならば鳳ノ介はバチで頬を叩きつけ、茶道の稽古の最中ならば沸いた湯を浴びせかけた。
舞いの途中なら足を掛けて畳に転ばせ、尻を捲って腫れあがるまで百叩き。
句を書く途中なら短冊を奪い取って喉元に突きつけ、着付けの途中なら腰ひもを奪って緊縛した。
玉露は反駁しなかった。
熱があるとか具合が悪いとか、そんな訴えもせず、言い逃れに用いることもなく、悔しそうに唇を噛んで挑むような眼をしていた。
それは多分、言動に出さない鳳ノ介への反抗などではなかったろう。
己自身へ向けた憤りに似た何かだ。
そうして無理を圧しても前へと進もうとした挙句、小枝がポキリと折れるよう、倒れてしまうことがあった。
「ちと、やりすぎじゃないのかい?」
かつて鳳ノ介は店主の親父にそう言われたことがある。
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