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深く、低く、響く声が紅花の鼓膜を震わせた。
耳元で囁かれれば脳髄まで痺れてしまう、そんな甘い毒気のある美声だ。
女であれば誰しも腰が砕け、股の間を湿らせてしまうことだろう。
かかる吐息と、舌の動く僅かな潤んだ音にさえ、全身を舐られているような快楽を覚え、知らず喘ぎを漏らす者すらあるやもしれぬ。
そんな蠱惑的な響きだ。
危険を承知で飛び込む虫の、豆粒ほどの小さな両目に映る炎と同じくらいに美しい。
ぞくりと紅花の背に怖気が走った。
肌が泡立ち、熱くもないのに汗が滲む。
「俺がやってやろうか」
睦言の甘さ、柔らかさで、鳳ノ介は紅花を誘う。
「仕込みから水下げまで俺が一夜で終わらせてやる。アレが目を覚ます頃にはおまいは立派な一人前だ」
ぐるりと世界が一転した。
――かに、紅花には思われた。
実際には視界が半回転ほど回っただけだ。
肩を抱かれたと思う間もなく、畳の上に押し倒されていた。
「何せ初めてのことだ。薬がねぇんじゃ多少痛みはするだろうが、じき極楽浄土を味わえる。心配する必要はねぇぜ。おまいさんの歳にはアレはとっくに客を取ってた。仕込んでやったのは俺だ。子供の扱いは心得てるってことよ」
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