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幕の裏の七・伏兵
どうしてこうも白いのかしらねぇ。
彼女はそう言って実に不満げな溜め息を漏らす。
廊下から戻った娘は、文句言わないの、と彼女の不平を一蹴した。
これでも見てればいいじゃない。と、付け加える。
娘の両腕には大ぶりの花瓶が抱えられ、色とりどりの花が咲き乱れていた。
菖蒲に霞草に百合にヒマワリ、トルコ桔梗、ラッパ水仙、吾亦紅、友禅菊にマリーゴールド。
下品だこと。
と、娘の手元を一瞥して彼女は眉間に皺を寄せた。
真っ白な部屋に彩りを与えるに十分過ぎる華美な花束は、しかし彼女の趣味に沿わない。
少しくらい気遣いってものをしたって罰は当たらないでしょうに。
彼女が言うと、娘は枕元の台に花瓶を据えて花の形を整えながら、軽く肩をすくめて見せた。
気を遣ってるから来たんでしょうに。
気を遣わなきゃ来もしないとしないと言うのね。
そうは言わないけれど。
棘のある言葉を往復させて、今度は娘の方が溜め息を吐いた。
いつまでも気丈なのは有り難いけれど、そういう振る舞いはどうなの。慎ましいとか奥ゆかしいとか、常々言ってるのではなかったの。
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