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花紋様の織りの浮かぶ淡色の絹の襦袢はいかにも女らしく、
その隙間からはふくよかな胸の膨らみと谷間が覗きそうに思える。
だが実際は女のそれに比べるとまったく扁平な胸板があり、汗に濡れて光っていた。
小さく薄く色づいた部分のすぐそばを、透明な滴が伝い流れる。
それを目で追いかけた紅花は、急にハッとして瞬きした。
頬が僅かに紅潮する。
その由を、初心さの残る少年は深く考えずに口を開く。
「扇風機はデンキというもので動くそうなので、ここでは使えないと思いますけど」
紅花が言うのに玉露は大仰にしかめ面して見せた。
「んなこたぁわかってるよ。誰が教えてやったと思ってるんだい」
勿論、玉露本人である。
そしてその知識を玉露に与えたのは、情報通で新しもの好きの猪田か、立派なお屋敷に最新式の家具を備えていそうな男爵家の占部粋正か、いずれその辺りの客らであろう。
「まったく馬鹿も大概にして欲しいねぇ」などと、玉露は扇子を動かす手を止めないまま紅花を悪し様に言う。
が、玉露の悪口雑言はもはや趣味みたいなものであるから、紅花もこの程度では動じない。
ちょっと唇をへの字に曲げただけで、他に玉露の気の紛れそうな話題を探した。
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