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玉露は幾らか羨ましがるような視線を注いでいたものの、意地を張ったのか、ぷいとそっぽを向いた。
或いは、驚嘆し夢中になっている少年の手から奪い取っては大人げないと思ったか。
否、彼に限ってそんな遠慮はない。
やはりただ意地を張っただけであろう。
気づいた紅花が、
「哥さんもよければどうぞ」
と差し出したが、彼は煩わしそうに手をひらひらさせて退けた。
興奮冷めやらぬ紅花は、ならばと引き続きセロファン越しの青い風景を楽しみたい衝動を堪えつつ、次に何をすべきか思案する。
トキワへの礼が抜けていたことを思い出し、慌てて感謝を口にした。
もっとも、少年の様子を見れば喜んでいるのは明らかであるから、
謝辞など述べられるまでもなく、青年は満足そうに笑んでいる。
紅花の丁寧なお辞儀に目を細め、
「二階に上がって窓の外を見ておいで。空を覗くと面白いよ」
と促した。
紅花は躊躇って玉露の顔色を窺う。
すでに話題に飽きたらしき彼は、いつの間にか腹ばいになって頬杖をついた姿勢で、尖った顎をくいとしゃくった。
「仕事をサボったら承知しないよ」
「はいっ」
駆け出す背中に投げつけられた言葉に、紅花は元気よく応える。
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