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四幕の四・
娼妓というのは因果な商売である。
因果、というのがどういう状況を指すのか知れないけれど、どこかで聞きかじったのだろう、そんなようなことを紅花は思う。
玉露の業深さは人一倍であろう、などとも。
あちらこちらで恋火を燃やし、情を交わして、深みに嵌めて。
勿論それは商売であるし、客だって分かり切ってはいる。
分かっておれども、見境を失う。
そうして箍を飛ばしてしまう。
玉露の技量がそうさせるのだ。
見た目の美しさでも閨事の上手さでもない。無論、それもあろうが、玉露という娼妓の在り方が、男を絡め取り、煽情するのだ。
そうした一連を、紅花は考えるともなく考えていた。
少年のこぼれ落ちんばかりに大きな両の瞳の裏側には、まだ昨晩の猪田の様子がちらついている。
あの猪田ですらああなるのだ。
猪田が玉露に惚れているのは紅花とてはなから知っていた。
しかし遊びである。
惚れた腫れたと言ったところで所詮は火遊び。
娼妓を買うというのはそういう大人の遊戯に過ぎぬ。
猪田は無神経だし気の回らぬ男であるが、育ちの良さからくる大らかさとあっけらかんとした明るさを備えている。
何より遊び慣れている。
だから好きだなんだと言ったところで本気ではあるまいと紅花なんぞはたかを括っていた。
別に嘘を吐いているという意味ではない。
嘘っぱちは玉露の十八番で、多分、客側は猪田に限らず嘘などひとつも吐かぬであろう。
嘘を吐く必要もない。
可愛い、愛しい、好きだ、惚れている、欲しい、終生そばに居たい。
どれもほんとで、ただ、その場限りなだけである。
本気と言えば本気かもしれないが、その夜、その場、その時限りの、いわば期間限定の本気である。
であればこそ、客は娼妓が何人他に男を咥え込んでいようと問題にしない。
店を訪れ座敷に上がり、目に映して肌に触れているその瞬間だけは、相手は紛うことなき相思相愛の恋人なのだから。
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